海棠さんがここに来て間もない頃、泳ぐのは苦手と言っていたことだって覚えてる。そんな彼の口から、泳ぎに行こうだなんて考えてみたらおかしい。
つい笑い出しそうになる私の手を、海棠さんが引き寄せた。引っ張られた勢いで足元からよろけた私の体は、前のめりになって倒れていく。
とっさに受け止めようとしてくれた海棠さんまで巻き添えに、砂に足を取られてしまった。
膝から倒れた私の下には仰向けになった海棠さん。しかも彼の腕を押さえつけるような妙な体勢で収まってしまってる。
私が離れるより早く、海棠さんが私の腕を掴んで引き止めた。
あまりにも恥ずかしい格好になった自分たちの姿を想像したら、まともに海棠さんの顔なんて見ることができない。
「ごめん、服が汚れちゃったね……」
目を合わせないようにしながら、早々に退こうとするのに海棠さんが手を離してくれない。
いやいや、早く離して。こんな格好で砂浜で転がってるのは、誰が見てもおかしいと思う。
ほら、今もジョギングしてる人が視界の端を通り過ぎていった。
困惑する私なんて全然気にしてないのか、海棠さんがゆるりと口角を上げた。
「服ぐらい、構うものか」
ふわりと体が浮き上がる。
おしりが着地したのは海棠さんの膝の上。さっきよりも顔が近づいて、ざわっと熱が胸にこみ上げてくる。

