聴かせて、天辺の青


ぷらぷらと街を散策した後、自然と足は海の方へと向いていた。駅の案内所でもらった地図に載っていた夕日の見える砂浜を目指して。



なんとなく、海が見たいと思った。
きっと海棠さんが察してくれたのだろう。
いや、海棠さんも同じ気持ちだったのかもしれない。なんて思うのは、単なる私の驕りだろうか。



緩やかに湾曲した砂浜に、打ち寄せる波と白い波飛沫。まだ暗さの滲んだ海の色は、夏の盛りになれば青さを増して砂浜の白色とのコントラストが綺麗に映るはず。



砂浜を散歩している人、ジョギングしている人、腰を下ろして海を眺めている人を横目に、私たちは波打ち際を歩き始めた。



砂に足を取られて歩きにくいけれど、海棠さんの手が支えてくれるから平気。そして彼もふらついては、私の手をぎゅっと握り締める。



「泳ぎに行く約束、覚えてる?」



足元ばかり気にする私に、海棠さんが呼びかけた。顔を上げたら、ふわっと吹き抜けた風が私たちの前髪をかき上げる。



「え? 忘れた」

「とぼけてる? 水着買いに行くって言っただろ?」

「そうだったかなあ……」

「言ったよ、この耳で確かに聞いた」



と言って、海棠さんは自分の耳朶を指差してみせる。



そんなことしなくたって、ちゃんと覚えてるよ。
泳ぎに行こうとは言わなかったけど、海に行こうって言ったこと。一緒に水着を買いに行こうって言ったこと。