聴かせて、天辺の青


二度も邪魔されてしまった私たちは、渋々神社を出た。だけど悪いのは私たち。公共の場で人目も気にせず、いい雰囲気になってしまっていたのだから。



おばあさんに悪意は感じられなかった。
むしろ別れ際に見せてくれた笑顔に勇気付けられられる。これからを期待したくなるような言葉に。



歩き始めて間もなく、海棠さんが私の手を握り締めた。振り向いた遥か遠くには赤い鳥居。



「おばあさん、ついて来てない?」



海棠さんが私の視線の先を追う。
どうやら同じことを考えていたらしい。さっきのおばあさんが、また私たちのことを見ているかもしれないと。



「大丈夫、居ないよ。ずっとつけて来てたら怖いね」



くすっと笑い合って、海棠さんと一緒に周りを見渡した。もう、おばあさんの姿はどこにも見えない。



「だけど、いい人な感じだったし嬉しかった。瑞香、きっと幸せになろうな」

「うん、もちろん」


胸の奥の方が、ざわっと騒ぎ出す。



『アンタ』と呼ばれ慣れているから、いきなり『瑞香』なんて呼ばれたら耳がこそばゆい。
それに海棠さんが繋いだ手に力を込めるから。



しっかりと手を繋いだ私たちは、モニュメントの並んだ歩道を歩き出した。ゆったりと街並みを眺めながら、繋いだ手の温もりを感じながら。