聴かせて、天辺の青


差し伸べられた海棠さんの手が、私の手を包み込んだ。ゆっくりと引き寄せる力に身を委ねて、私は彼の胸の中へ。



「ちょっと、ごめんなさいね」



ふいに呼びかけられた声が、私たちの動きを止める。私はまだ彼の胸の中へ到達していない。
すぐに重心を戻して振り向くと、見知らぬおばあさんが怪訝な顔で私たちの顔を交互に見てる。



「いいところを邪魔して悪いけど、お参りさせてくれる?」



唖然とする私たちに告げて、おばあさんはにっこりと笑う。



そうだ、こんなところで私たちは……



思いきり拝殿の前で、いい雰囲気になってしまっていた。いくら参拝者が少ないとはいえ神様の真ん前、しかも見てたのは神様だけじゃなくて見ず知らずのおばあさん。



気が付いたら、急に恥ずかしくなってくる。



「すみません、すぐに退きます」



と言って、海棠さんは私の手を引いて駆け出した。なんだか恥ずかしいけれど胸が弾んで、ちょっと楽しいかも。



私の半歩前を海棠さんが走る。斜め後ろから見える海棠さんの顔には笑みが浮かんでいかにも楽しそう。私だって負けないぐらい笑ってる。



このまま、どこまででも駆け抜けていきたい。