「俺の田舎にも大きな鳥居のある神社があるけど、ここも負けてないな」
海棠さんが鳥居を見上げて、目を細める。
彼の目は鳥居の向こうに見える空の、さらに向こう側にある何かを捉えているように思えた。たぶん、それは海棠さんの田舎の空。
「その言い方って、海棠さんの地元の方が勝ってるっていう意味でしょう?」
「もちろん、あの大鳥居には絶対に勝てないと思う。日本で一番だよ」
「ふぅん……、そんなに立派なの?」
「ああ、アンタにも見せてやりたい」
ぽつりと吐いて、海棠さんが振り向いた。
『アンタ』って呼び方はやめてよ、と言いたい気持ちが喉元まで出かかっていたのに引っ込んでしまう。
「じゃあ、見せてよ」
代わりに出てきた言葉は自分でも驚くほど語気が強くて、海棠さんも僅かに目を見開くほど。彼にとっても意外な返事だったらしい。
私の腕を挟んだ腕に、ぎゅうっと力を込めて微笑んだ。
「わかった、必ず見せてあげる。だから俺のことだけ考えてて」
「考えてる、だからどこにも行かないで」
私も笑って返す。
海棠さんの腕にしがみついて。
だけど、むずむずと胸の奥がこそばゆくなってくる。
いつの間に、こんな言葉を素直に口に出せるようになったんだろう。以前までの私なら、絶対に言えなかったような言葉。

