バスに乗って五分も経たないうちに神社に到着した。
「のんびり歩いてみてもよかったかな……」
バスを降りてすぐに海棠さんが言った。ちょうど私も同じことを思ったところだったから驚いたけど、なんだか嬉しくなってしまう。
「バスに乗るのも観光だから、帰りは歩こうよ」
「わかった、じゃあ行こうか」
と言って、海棠さんは再び私の手を引いた。ぎゅっと引き寄せた手が、海棠さんの腕の中へと吸い込まれる。
「今日は、こうやって歩いてもいい?」
海棠さんの柔らかな声がさっきよりも間近から聴こえてきた。私の腕は海棠さんの腕に絡ませる格好になって落ち着いている。
「うん、べつにいいけど」
ためらいつつも答えたら、海棠さんは笑顔で返してくれた。
恥ずかしいけれど、今日ぐらい。
いや、今日と言わずにずっとこうしていてもいいのに。
思ったことを口に出せないもどかしさが、胸の奥でうずうずしてる。
「あれが鳥居? 大きいなあ……」
赤い鳥居を前に、海棠さんが声を上げた。
ぼそりと抑揚のない声で話していたのはいつのことだったのか。ここに来た頃とは違う彼の明るい表情に、こみ上げてくる安心感。
海棠さんの腕に、もっと強くしがみつきたい。

