「うん、だめ?」
「いや、いいけど……、そんなに食欲があるなら、もう安心だな」
戸惑いの感じられた海斗の声が柔らかく変化する。表情から驚きの色は消えて、ふわりとした笑み。
隣にいる海棠さんも、海斗と同じように優しい目をしている。
なんだか恥ずかしくなるほど。
「ごめんね、余計な心配させて」
「気にするな、運が悪かったんだ。怪我も大したことなさそうだからよかった。強盗犯も捕まったことだし、なあ?」
海斗が海棠さんを振り向いた。何か吹っ切れたようなさっぱりした顔をして。
一時期、海斗が海棠さんに対して見せていた顔とは違って、親しみを込めた表情。彼と接する雰囲気が変わったというのか……、彼が強盗犯じゃないとわかったからかな。
「あの時はそんなこと知らなかったよ、逃げようとするからムカついて捕まえただけで」
「そりゃあ、ムカついて当然だよ、なあ? 瑞香」
海斗が今度は私の方を振り返る。
ちょっと笑みの浮かんだ顔が、口にした言葉以上にまだ何か言いたげ。
だけど気にするまい。
気にするまいと思ったのに、海斗の目が語ってる。海斗はわかってるのかもしれない。私だけじゃなく、彼のことも。

