聴かせて、天辺の青


彼の手が私の髪を撫でつける。そっと滑らせた手つきが、まるで小動物に触れる時みたいで変な感じ。



「そんなこと、どうでもいいよ」



撫でる手の感触とは反対に、彼は苛立ちの混じった声を吐く。
なんとなく怖くて、まともに顔を見ることができない。テレビへと視線を移そうとしたら、彼の手が視界の端に映り込む。



とっさに目を閉じたら、ふわりと前髪をかき上げられた。おでこが全開になって恥ずかしい。隠そうとして伸ばした手を、彼が反対側の手で掴んだ。



覗き込むような格好で、彼が見下ろしてる。



「海棠さん?」



問いかけても答えてくれない。
怒っているのかと思うほど。
テレビを遮って、ゆっくりと近づいてくる彼の顔は無表情に近い。



胸の奥がもぞもぞとし始める。
ベッドに横たわっているから後退りしたくてもできるわけない。



やがて表情がわからなくなるほど近づいてきた彼が、私に覆いかぶさって。
おでこに触れたのは彼の唇。
とくんと胸が震えた。



自分の胸の音しか聴こえない。
テレビの音さえ、かき消されてしまったみたいに。息をするのもためらわれてしまう。