率先して話す河村さんの隣で、海棠さんはただ頷いてるばかり。話を振られてひと言ふた言答えてるけど、自分からはあまり話そうとはしない。
「仕事のことは気にしないで、完治するまでゆっくり休んでね。瑞香ちゃんの分は海棠さんに働いてもらうから」
と言って、河村さんはにこやかな顔で帰って行った。そう言ってもらえるのは嬉しい。彼は戸惑った風な顔をして笑っていたけど。
病室に残った海棠さんがベッドの傍に立って、手を伸ばす。枕元に置いたテレビのリモコンを取ると思っていたのに。
彼の手はリモコンを素通りして、私の頭に触れそうなほど近づいてくる。
思わず身構えたら、彼の手が髪に触れた。
「痛くないか?」
彼らしくない声。
ふわりと舞い降りてくる声と髪を撫でる感触。
包み込んでくれるようなやわらかさに体が浮かび上がってしまう気がして、ベッドに背中をくっつけようと意識してしまう。
「うん、痛くないよ。すごい偶然だったね、ぶつかった相手が強盗犯だったなんて……、捕まってよかったね」
彼の顔をまともに見ることができなくて、テレビを観ながら答えた。笑ってみせたのは少しでも照れ臭さを隠したいから。

