それ以降、海棠さんが自分のことに触れることはない。彼が自分から何も言わないから、私も何にも尋ねたりしない。
麻美からは何度か確認の連絡があったけど、全否定し続けたら納得してくれた。
彼の態度は至って普通。
以前と比べたら不機嫌になることもなくなったし、解れたというのか話しやすくなったと思えるほど。おばちゃんの手伝いもアルバイトの勤務態度も真面目だし、ここに馴染んできた感じ。
もしかすると、彼は意識しているのかな……
自分をここに合わせようとして、懸命になっているのかもしれない。
都合のいい勝手な憶測かもしれないけど、そう思っていたい自分がいることに私も気づいてしまっていた。
ほぼ毎朝、彼と一緒に自転車を走らせてアルバイトへ向かう。帰りは私の方が早いから一緒に帰ることは少ないけど、彼がおばちゃんの家に帰ってきたら必ず顔を合わせてる。自分の家族よりも、顔を合わせている時間は長いと思う。
いつもおばちゃんと紗弓ちゃんと私が台所で食事の準備をしている間、隣りの和室では小花ちゃんが彼の帰りを待っている。
だけど今日は、和室に小花ちゃんの姿がない。

