「おかえりなさい、ピアノしよ?」
和室の入り口から、ひょっこり顔を覗かせたのは小花ちゃん。入り口近くに座ってる彼の腕をつんつん突ついて、恥ずかしそうに笑う。
「小花ちゃん、こっち来んか、おっちゃんが座らせたろ」
和田さんが手招きして、胡座をかいた膝を指し示す。小花ちゃんはきゅっと体を強張らせて、警戒の眼差し。
「和田さん、怖がるからやめたってください。泣きそうやないですか」
有田さんが柔らかな笑みを浮かべるけど、小花ちゃんは固まったまま。
私が小花ちゃんぐらいの歳だったとしても、きっと和田さんが怖いと思うに違いない。
「ほな、お菓子食べるか?」
と言って、和田さんが差し出したお菓子にも見向きもしない。
「しゃーないわ、やっぱり若い方がええねんて、紗弓ちゃんの娘やしな」
「そうか、あかんなあ……、わし嫌われてるなあ」
本郷さんに慰められて、和田さんはがくりと頭を垂れる。
「今日はありがとうございました」
海棠さんが立ち上がった。
素早く彼の手を握った小花ちゃんは得意げな顔。さっきまでの怯えた顔はどこへやら。
二人は仲良く手を繋いで、部屋を出て行ってしまった。

