聴かせて、天辺の青


どうして、麻美が知ってるんだろう。
海棠さんのことを。



浮かんだ疑問が胸の奥で漂ってる。波に揉まれて姿を消したかと思ったらまた現れて。少しずつ近づいているようにも離れていくようにも見えるけど、一定の距離を保ったまま。



彼が誰だとかいうことよりも、麻美が知っていることの方が私にはショックだったかもしれない。彼が話してくれるのを待っていたのに、それより先に麻美が知っていたことの方が苦しい。



もちろん浴場は男女別れて。
こんな時、女ひとりは寂しい。
きっと彼は今頃、賑やかな和田さんたちと一緒で楽しんでいるだろう。
そんなことを考えつつ、ひとり入浴を済ませて休憩所へ。



広々として眺めのいい窓際のソファ席の向こうには、マッサージチェアが並んだスペース。その奥にはだだっ広い座敷があって、入り口の引き戸の向こうにゆったり過ごす人たちの姿が見える。



あの中に、皆も居るのかなあ……



「瑞香!」



休憩所へ向かう私を呼び止めたのは、またもや麻美。
軽やかな足取りでやって来る麻美は誇らしげな顔。さっき和田さんに絡まれていた時の、おどおどした感じは全くない。



「瑞香、思い出したよ」



麻美は力強い口調で言ったあと、きゅっと口を結んだ。緩やかに上を向いた口角には確かな自信が表れてる。