「前の職場の方がよかった?」
「そりゃあね……、合宿に来る子と温泉に来る人とは違うから」
そっと尋ねてみると、麻美は周りを気にしながら声を潜めた。語尾になるにつれて、もぞもぞと恥ずかしそうに。
麻美の勤めていた運動公園には合宿施設が併設しているため、夏休みになると町内だけでなく県内外からも体育系の学生が多数訪れる。
事務所の仕事とはいえ、彼らの練習に励む姿を見る機会も多かったはず。
彼らと温泉を訪れる人では、年齢層も体格も違っていて当然。
「麻美ったら正直だね」
「だって……、目の保養だよ、そうでもしないと縁が無いし」
麻美の言うとおり、若い人は町を離れることが多いから出会いは少ない。
「それやったら、オッチャンがエエ人紹介したろか?」
麻美と私の間に、和田さんが顔を覗かせた。驚いた麻美の肩が、あからさまに跳ね上がる。
「和田さん、聞いてたの?」
「ああ、聞く気はなかったんやけど聞こえてもたんや」
「す、すみません……、あの……」
おろおろする麻美に対して、和田さんはしらっと澄ましてる。和田さんに言わせたら、この表情を『うかめてる』というのだろう。

