ふと和田さんが振り向いた。
「海棠君は泳げるの?」
「え? はい、泳げますけど……」
あまりにも唐突な質問だから、海棠さんが戸惑ってる。まだ泳ぐには時期が早過ぎるのに、何を言ってるんだろう。
「和田さん、今から行くのって温泉だよね?」
わかりきったことを尋ねてしまった。
まさかとは思うけど、和田さんは温泉で泳ぐつもり?
「そうや、まさか瑞香ちゃん、温泉で泳ぐと思ったんか?」
「う、うん……、違うよね?」
「そんなわけないやろ? 怒られてまうわ」
「瑞香ちゃんは泳いだらアカンで?」
「わかってるよ、和田さんこそはしゃぎ過ぎて泳がないようにね」
言い返したら和田さんは口をへの字にして頭を掻いた。その顔を見て、本郷さんと有田さんが笑い出す。つられて彼も笑う。
お茶を飲んでひと息吐いて、和田さんが彼の顔を覗き込んだ。
「白瀬大橋渡って真っ直ぐ行ったら海水浴場があるねん、夏になったら行ってみ」
「はい……」
彼がますます困ってる。
和田さんの意図がわからない。どうして急に、そんなことを言い出すのか。

