衣料品店の店先に掛かっている大きな時計を見たら、もう間もなく十一時三十分。和田さんとの待ち合わせは十二時だ。
ここからお寿司屋さんは車で十分もかからないけど、途中で何があるかわからない。
それに和田さんたちよりも早めに着いておきたいし。
「そろそろ行く? 和田さんたちを待たせたら悪いから」
すると彼は焦ったように、もう一度時計を見上げた。
「ああ、ちょっとだけ待って。見たいものがあるんだ」
「何か買うの?」
「うん、先に車に戻ってて。すぐに行くから」
「わかった、車で待ってるね」
やわらかな笑顔を残して、彼が駆けていく。何の不安もなく見送ることができたのは、彼が負とは違う感情を表に出してくれたから。
さっきCDを見ていた時の表情と、今の彼の表情は違う。
あの時、彼が表情を曇らせたのは理由があるはず。だけど、今は触れるべきじゃない。
彼の笑顔を失くしたくないから。
私にとっては高校の頃の楽しい思い出を蘇らせてくれる歌だけど、彼には違うのかもしれない。彼にとってはあまりいい思い出を伴わない歌なのかもしれない。
遠ざかっていく彼の背中を見送りながら、一足先に車に戻った。

