聴かせて、天辺の青


「ねえ、何かあったの?」



ふいに呼び掛けたのは、常連客の近所のおばさん。私に問い掛けてすぐに、彼へと視線を送った。



気づいたら他のお客さんの視線が、私へと注がれている。私の答えを聞き漏らさないようにと、息を潜めて耳を傾けて。
中には見知ったお客さんもいる。



普段は気がいい人たちなのに、今は彼らの視線に込められた疑惑が痛くて辛い。ここではないけれど、以前にも感じたことのある視線だから余計に。



「いいえ、御迷惑おかけしてすみませんでした」



言い切って、深く頭を下げた。
さっきの女性客らほどではないけれど、謝意を汲み取ってもらいたい。これ以上深く追及することはやめてほしいと、祈るような気持ちで。



お願いだから、わかってほしい。



「そうね、ここに居るのにわからないわよね……、何だったんだろうね」



おばさんは首を傾げて笑った。



私を見ていたお客さんたちの視線が解けて、安堵感に肩の力が抜けていく。店内を動き始めたお客さんの声にも、落ち着きが戻ってきたことが感じ取れた。