店内から事務所に通じる扉が勢いよく開いて、海斗が飛び出してきた。すぐに店内の様子に気づいて、彼の元へと駆け寄っていく。
「どうした? 何かあったのか?」
海斗が問い掛けると彼の強張った表情から力が抜けて、女性客がよろめいて後退りする。彼が小さく首を振った。
店内のお客さんたちはまだ、彼らの様子に釘付け。何があったのか、これから何が起こるのか、成り行きを最後まで見届けようとしている。
「あの……、ごめんなさい」
「人違いでした、すみません」
女性客らが言い放って、大きく頭を下げた。おでこを膝にぶつけてしまうんじゃないかと思うほど深く。
そのまま顔を上げながら彼女らは彼に背を向けて、出口へと駆け出していく。
「ちょっと、待って!」
海斗は彼の肩を軽く叩いて、店を出た彼女らを追っていった。
店内がざわめき始める。
お客さん同士で何の騒ぎなのかと探る声は耳触りで、不快に感じているのは私だけじゃない。
取り残された彼は項垂れたまま、呆然とした顔をしている。

