「違うと言ってるだろ!」
彼の声が響き渡った。
店内に居るお客さんたちが一斉に彼を振り返る。手に持っている商品をそのままに、足を止めて。買物を済ませて外へ出ようとしていた人まで、再び店内へと向き直る。
誰もが驚きに満ちた表情で、彼を見つめている。
それでも彼は周りの視線など全く気にも留めずに、目の前にいる二人の女性を睨んで唇を噛んだ。溢れ出した苛立ちに、再び蓋をしようとする様子が痛々しくも見える。
だけど、彼はまだ何かを言いたげにも見えた。一気に溢れ出した感情に、蓋をするのは容易なことではないだろう。
彼女らは、完全に固まってしまっている。前のめりになっていた体を起こし、肩を寄せ合って。
間違いなく驚いている。
私だって。
あんなに大きな声が、彼から発せられるとは思わなかったから。つんとして無愛想な彼は見てきたけれど、あんな怖い顔の彼を見たのは初めてだったから。
今すぐに駆け寄りたい衝動に駆られるけれど、怖くて動けない。

