息をつく間もなく押し寄せていたお客さんの波は去り、ようやく手を止めて店内へと目を向けた。疎らに残ったお客さんが、ゆったりと陳列棚を見ている。
その中に、さっき彼を見ていた女性たち。陳列棚を見ていると思ったら一人が顔を上げて、こちらを振り返った。
目が合いそうになったから、とっさに顔を伏せると頭上から降ってくきた彼の声。
「やっと引いたな、俺は藤本さんの片付けを手伝ってくるよ」
彼女たちの視線に気づいたのか、ぼそっと小さな声で。くるりと背を向けて速足で去っていく姿は、まるで逃げるように。
「ありがとう」
と急いで返した言葉は、彼の背中に届いただろうか。
すると彼を見送る私の視界に、彼女たちの姿が飛び込んだ。焦りを露わにして、急ぎ足で彼を追いかけていく。
「すみません! 待ってください!」
事務所へ通じる扉へと急ぐ彼の背中に向けて、彼女たちが呼びかけた。

