海斗の車は速度を落とし、ゆっくりと交差点を曲がる。この道を真っ直ぐ進んだ先の住宅街の中に、河村さんの家がある。
シフトレバーを握る滑らかな左手の動きに反して、海斗の表情は固い。
「河村さんが離婚するのは、本当に旦那さんの浮気が原因なの?」
一応、確かめておきたかった。
旦那さんの浮気が先なのか、海斗が河村さんにアプローチしたのが先なのか。先に気持ちが離れたのは、どちらなのか。
海斗が、ふっと笑って振り向いた。
「俺のこと、疑ってる? 俺が河村さんをそそのかしたから旦那さんとの関係が悪くなった。だから旦那さんが浮気したと思ってるだろ?」
「うん、そう考えられなくもないなあ……と思ったから聞いてるの、本当に違うの?」
「残念、違うよ。旦那さんが単身赴任してただろ? たまに土日に帰ってきても河村さんは仕事だし……少しずつすれ違ってたんだ」
淡々と話す海斗の言葉は、胸の中に沈み込むことなく浮かんだまま消えない。とくに『すれ違ってたんだ』という語尾の部分だけが。大して強調した訳でもないのに、耳に残っている。

