「じゃあ、その傷は何? やられた傷なんでしょ? 上手に正面から入ってるじゃない」
自分の口元を指差して見せた。
すると海斗は悔しそうに舌打ちして、ぐいと左手を伸ばす。驚いて後退りしたのに、海斗の手はシフトレバーを掴んだ。
「はは、ビックリするなよ。あのな、四人も相手にしたんだから、これぐらいの傷は仕方ないだろ?」
「四人? どれだけ走らせてんの?」
「バトルしたのは一台。一台に四人も野郎が乗ってたんだ。ちゃらちゃらした車に四人も乗って、まともに走れる訳ないだろ、相手にならないって」
ハンドルを握りながら誇らしげに笑う海斗を見ていたら、私まで肩の力が抜けてきた。もっとドロドロしたものを想像してしまってた自分が恥ずかしい。
だけど、はっきり聞いておかなくては。
「それより河村さんとはどうなの? 離婚と海斗は関係ないの?」
「しつこいなぁ……違うって言ってるだろ、旦那さんが単身赴任してるの知ってるだろ?」
「うん、だから何?」
「鈍いなあ……旦那さんの浮気。河村さんには言うなよ」
めんどくさそうに吐き出したのは、衝撃的な言葉。あの優しそうな旦那さんが、浮気なんて信じられない。
「うそ、すごくいいお父さんな感じだったのに……」
「嘘じゃないよ」
軽快にシフトダウンした海斗の口調に、確かな苛立ちが感じられる。

