聴かせて、天辺の青



「ごめん、海斗の車って、こんな感じだったかなあ……と思って」

「なに? ぶつけた跡でもあるの?」

「違うよ、フロントバンパーの形が変わった気がしたから」

「それって、ぶつけたから交換したんじゃないの?」

「ぶつけないよ、海斗は運転上手いんだから」


言い返して、振り向いた。


彼の向こうに見える建物の傍に、立っている人の姿。じっと私たちを見据えているのは、海斗だ。


あんな所に立っているということは、まだ河村さんは来ていないらしい。鍵を持ってるのは河村さん。よほどの用事がない限り、いつも誰よりも早く来ているのに。今日はまだ来ていないということだ。


「何を見ているんだ?」


ゆっくりと歩み寄ってきた海斗が、不機嫌そうに尖らせた口の端が赤く腫れている。よく見ると口角が切れている。どう見ても、ただ事ではない。


私の視線を避けるように、海斗がふいと横を向いた。


「どうしたの? 怪我?」

「ああ、ちょっとな」


車を見ながら、ばつが悪そうに答える海斗の横顔が何かあったと感じさせる。ますます気になって、放ってはおけない。