「いいよ、急ぐよ。安全運転だけど」
さらりと返して自転車に跨った。
遅れまいと彼が後に続く。漕ぎだした背中に、彼の声が投げ掛けられる。
「急がなくても間に合うだろ、いつもより時間は早いし……彼に話すつもりだろ？」
「どうしてわかったの？」
「いつもより時間が早い。それに朝食の時、顔見てたらわかった。そうじゃないかって」
「驚いた、意外と観察力があるんだ」
「アンタが単純なんだ。俺の方が驚いた、そんなに早く問い詰めるなんて思わなかったから。何かあったのか？」
昨日、海斗と河村さんを見たことは話すことないだろう。やっぱり……と思われるだけ。
「べつに何にもない、早い方がいいと思っただけ。まさか海棠さんも一緒に聞いてるつもり？」
「そんなつもりはない、ただ一緒に行くだけ。俺は知らん顔してるから」
「だったら一緒に来てもらわなくてもいいよ」
「一人で悶々と考えるよりマシだろ」
するりと彼の自転車が私を追い抜いていく。追い抜きざまに振り返った彼が、にこりと笑う。
いつもより口数が多いだけじゃない。表情まで増えたように思えた。
