「へぇ、東京……うちの息子も東京で働いているのよ。さあ、こっちに来て早く食べて、遠慮しないでいいから」
部屋の隅で浮かない顔をしてる彼に、おばちゃんが笑顔で手招きする。戸惑った表情をしていた彼は、恥ずかしそうに腰を上げた。
英司と同じ東京。
と言っても、東京は広い。
東京か……
刺すような痛みとともに、胸が疼き始める。吐き出してしまいたい思いに、溜め息が漏れそうになる。
そっと目を閉じて、唇を噛んだ。
胸の痛みが鎮まっていく。
ふうと静かに息を吐いて目を開けたら、黙々とご飯を食べてる彼の姿が映った。
忙しく掻き込むこともなく、ひと口ずつ噛み締めるように、ゆっくりと丁寧に。
揺れ動く頬は痩けていて、血色は決して良くはない。疲れを感じさせる目が、哀しげに見えた。
彼は今、生きていることを確かめながら食べているのかもしれない。
海を見ていただけ。
と彼は強い口調で言ったけど、やはり違うと思えてならない。
本当は、ヤバイことを考えていたんじゃないか。そう思わずにはいられない。
おばちゃんと私に見守られて、彼は綺麗に食べ終えた。満足そうに口角を上げ、両手を合わせて深く頭を下げる。

