何と言い返してやろうかと言葉を探していたら、おばちゃんが戻ってきた。
いつの間にか、彼はそっぽを向いて口を噤んでいる。私とは一言も話してないと言いたげな態度に、ますます腹が立ってくる。
「瑞香ちゃんの服も一緒に洗ってるから干しておくね、夕方には乾くよ。あなたのはどうしよう?」
台所に向かいながら、おばちゃんが呼び掛ける。
「ありがとう、じゃあ夕方に」
と返して、私は彼を振り向いた。
おばちゃんの言った『あなた』とは、間違いなく彼のこと。
彼は何と答えるんだろう。
ところが、さっきまで憎たらしい言葉を発していた顔とは一変して、彼は眉間にシワを寄せて口を固く結んでる。
どう見ても、答えに困っている様子。
怪しい……
「家はこの近くなの? だったら今日は干しておくから、あとで取りに来たらいいけど……どこに住んでるの?」
台所で手際良くご飯を装い、味噌汁を入れた腕とおかずの皿を盆に並べて、おばちゃんが和室へと運んできた。
答えを急かすように、おばちゃんが彼の顔を覗き込む。その視線を避けるように、彼が目を伏せた。
「東京です」
ともすれば、聞き洩らしてしまいそうな声。
おばちゃんの顔が、ふんわりと明るくなった。

