聴かせて、天辺の青



私は早々に二階の掃除へと向かった。彼が朝食を摂っているのを待っている理由もない。


彼の部屋は自分で掃除するだろうから任せるとして、他の部屋は私が済ませておこう。


いつものように掃除を始めたけど、なぜか集中できないし手際が悪い。何を意識している訳じゃないのに、常に耳を澄ませて雑念を拾い上げてしまう。


布団を干し終えて掃除機を取りに廊下に出たら、階段を上がってきた彼と鉢合わせてしまった。


意外と早く上がってきたことに、必要以上に驚いてしまう。彼が通り過ぎるのを待とうと、慌てて出てきた部屋に引っ込んだ。


彼は無表情のまま、私の前を通り過ぎていく。


と思ったら、急に足を止めた。


「今日は何か用事ある? 買い物に連れて行ってほしいんだけど?」


振り返りざまに問い掛ける声に抑揚はなく、頼みごとをするような表情でもない。


昨日話していた時の、訴えるような態度は何だったんだろう。やっぱり酔っ払っていたのだろうか。昨日のことなんて忘れているのかもしれない。


「ね? 聴こえてる?」


昨日の彼の姿を思い起こしていると、さっきよりも強い口調に呼び戻された。今度は抑揚のある多少苛立ちを含んだ声。


「聴こえてるよ」

「じゃあ、よろしく」


強めに言い返してやったのに、彼は僅かに笑みを浮かべたように見えた。