「今度の土曜日なんだけど、和田さんたちが一緒に温泉に行こうって言ってるんだけど、どうかしら?」
おばちゃんが彼に話しているのが聴こえる。彼は何て答えるのかな……と聞き耳を立てながら食事を装う。
「土曜日? はい、行きます」
「そう、よかった。和田さんも喜ぶわ……海棠さんと出掛けたいって言ってたから」
「僕も、和田さんとゆっくり話してみたいから楽しみです」
彼はためらいなく答えて、さらに楽しみだとさえ言う。本音かどうかはわからないけど、とくに嫌がっている訳ではなさそうだ。
だったら、私も行くしかないのかな。
食事を運んで行くと彼が振り向いた。見なくてもいいのに、私が皿を並べるのをじっと見ている。変な気分、緊張してしまう。
「アンタも行くの?」
並べ終えた頃を見計らったみたいに、彼が問い掛ける。
だから、『アンタ』っていう呼び方をどうにかしてくれない? と、今にも口を突いて出てきそうな言葉を堪えた。
「一応、行くつもりだけど」
さらっと答えると、
「そう、よかった」
と彼はひとことだけ答えた。
目も合わさないし無表情で『よかった』なんて言われても、良し悪しがわからない。
苛立つ私のことなど知らん顔で、彼は朝食を食べ始めた。

