「何、言ってんの?」
突き放すように言い返した。
確かに英司の方が背は高い。彼よりも十センチは高いと思う。英司なら、余裕で花に触れることができただろう。
だけど、どうして彼が英司の名前を口に出したりする必要があるの?
腹立たしさと苛立ちを込めた目で見てるのに、
「ごめん、怒った?」
と彼はしらっとした顔をする。
私が余計な事を聞いた腹いせかと思えて、返事をする気にもなれない。
彼は澄ました顔で、桜の花を見上げた。
もう、付き合いきれない。
「帰ろう、もう遅いし、おばちゃんが待ってくれてるから」
絶対に帰るつもりで言い放つ。
もういい加減にしないと、おばちゃんに申し訳ない。明日の朝もおばちゃんは早起きだというのに、私達が帰るまで鍵も掛けられないし、ずっと起きて待っていてくれてるんだから。
それでも彼は黙って、ぼーっと見上げたまま。静かに唇が開いて、か細い声が漏れた。
よく聴き取れないけど、何か歌を歌っているような感じ。聴き取れないことが余計に私を苛立たせる。
「早く車に乗って、私だって早く帰って寝たいんだから」
私は強く言いきって、彼に背を向けた。

