引き止めた?
ということは、彼は本気で海に飛び込もうとしてたの? 私は間違っていなかったの?
「俺、あの時どうでもよくなってた。海見てたら……自分でも何を考えてるのかわからなくなってきて、あんたが来て……」
未だに理解できない私に話してくれる彼の声は小さいけれど、嘘をついているようには思えない。ひとつずつ言葉を噛み締めながら時折、目を伏せて話す。
あの時、彼の表情ははっきりとは見えなかったけど、今の彼はあの時と同じ顔をしているのかもしれない。
「死のうとしてたの?」
聞いてはいけないことかもしれないと気づいたのは、言葉を口に出してしまってからだった。
僅かに顔を強張らせた彼は、強がるように懸命に口角を上げる。彼の痛々しい笑顔に、私は尋ねたことを後悔したけどもう遅い。
「よくわからない、ただ……帰りたいと思ってた。昔を思い出して、ここの海は俺の田舎に似てたから」
言い終えて、彼は唇を噛んだ。
東京を逃げ出してきた彼は、帰りたいのに帰れないんだ。宴会で話していたように、両親の反対を押し切って上京したのに逃げ帰るなんてできなくて。

