聴かせて、天辺の青



見上げたら、彼と目が合った。ぎゅっと胸を押し潰されるような苦しさとともに、全身を恐怖が伝う。何か言おうと口を開けるのに、声が出ない。


彼の口角がゆるりと上がる。見下ろしていた目が微睡みを取り戻す。


「悪い、冗談だよ」


掴んでいた手の力が抜けてく。


「冗談? 何考えてるのよ」


彼の手を力任せに振り払うと、肩を竦めて薄ら笑いを浮かべてる。こんな冗談が許されると思う? 腹が立って仕方ない。


「帰るから」


イライラしながら言い放ち、背を向けた。ここに置き去りにしてやろうかと半ば本気で思いながら。


「待って、ホントに悪かった」


背中越しに彼の声が投げ掛けられるけど、振り返ってるものか。今さら謝っても遅い。


車に乗り込んでエンジンをオンにする。危機感をおぼえたのか、彼は置き去りにされまいと急いで飛び乗ってきた。そして助手席から身を乗り出して、ハンドルを掴んだ。


「何? 離してよ」


きっと睨んだら、彼は縋るような目をしてる。


「悪かったよ、本当は……感謝してる。あの時、海に突き落と……じゃなくて、引き止めてくれて」


まくし立てるような言葉は、一度耳を素通りしてから頭の中に戻ってきた。すぐに意味を理解できなくて、頭の中に散らばる言葉を拾い上げていく。