「何? そんなつもりで言ったんじゃないけど、怒ってんの?」
隣に立った彼が、私の顔を覗き込む。今まで無愛想に徹してきたはずの彼が、ここに来て急に態度を変えた。
饒舌ではないけど、今までの口調よりトーンが高くて気持ち悪い。そして何より、態度の豹変がうっとおしい。
「べつに怒ってないよ、海棠さん、やっぱり酔ってる?」
「いいや、酔ってない」
「もう帰ろう、また海に落ちたら大変だから」
「自分からは落ちないよ、あんたに突き落とされない限りは大丈夫」
ムカつく……喋りすぎ。
酔った勢いかもしれないけど、無愛想ならずっと無愛想で居てくれてもよかったのに。
「帰ろ、おばちゃんも心配するし」
言い放って彼に背を向けた。彼の返事なんて待ってられない。
「待ってって、もう少しぐらいいいだろ?」
ぐいと手首を掴まれて引き戻される。華奢なくせに強い力。彼の手を解こうとした反対の手首も掴まれて、堤防に背中を押し付けられた。
「何? やめてよ、酔っ払い!」
手が解けないから脚をバタつかせたら、彼がもたれ掛かってきた。完全に押さえつけられた私が唯一動かせるのは頭だけ。
彼の顔が近づいてくる。

