「じゃあ、行こか」
和田さんの掛け声とともに部屋を出て行こうとした三人は、彼を振り返った。
三人の視線は彼と私の頭に。見るからに風呂上がりとわかる生乾きの髪を、交互に見つめてる。
三人の視線が痛い。
「お宅も定検? それとも、瑞香ちゃんの知り合い?」
ついに耐えきれなくなって、和田さんが問い掛ける。
海に落ちたなんて知られたら、何を言われるかわからない。適当にごまかそうにも何て答えたらいいのか、言葉が浮かんでこない。
「いや、違うけど……」
「彼女は知り合いじゃありません。海に落ちたんです、彼女に激突されて……突き落とされたようなものです」
もごもごする私を遮って、彼がきっぱりと言い放った。突き放すような強い口調。もちろん、顔は少しも笑っていない。
皆の顔が強張った。
さらに視線が突き刺さる。
お願い、スルーして。
「は? 何で海に? まあ、風邪引かんようにしいや、まだ寒いねんからな」
和田さんは彼の肩をぽんと叩いて、おばちゃんに手を振った。
「行ってらっしゃい、あなたは、そっちでテレビでも見ててくれる?」
三人ににこやかに手を振ったおばちゃんは、彼からボストンバッグを取り上げて和室を指差した。

