聴かせて、天辺の青



すごく見覚えのある服を着ているからか、全然知らない人には見えない。


あれは、英司のスウェット。


英司はおばちゃんの息子、私と同じ歳の幼馴染み。高校を卒業して大学進学のため東京へ行き、そのまま東京で就職した。


彼がひとつ咳をした。
着ているスウェットが大きく揺れる。


どう見ても、サイズが大きいようだ。ぶかぶかというほどではないけど、余裕があるように見える。


英司の方が背は高くて、体が大きい。目の前にいる彼は、どちらかというと華奢で線が細いから。


皆の視線に気づいた彼は会釈ひとつするわけでもなく、無愛想な顔をふいと逸らした。話し掛けてくれるなと無言のオーラを放っている。


「よかった、英司の服でサイズは合ったみたいね、濡れた服はどうしたの?」


問い掛けたおばちゃんの目は、彼が手にしたボストンバッグに。そういえば、堤防で見た時よりもバッグが膨らんでいる。


「鞄の中に……」

「濡れたまま入れたの? 洗ってあげるから出しなさいな、朝ごはんは? 食べてく? まだなんでしょう?」


まくしたてるようなおばちゃんの口調に、彼は驚いた様子で立ち竦んだ。