「ほら、小花、お姉ちゃんに挨拶して」
紗弓ちゃんが、手を止めて待ってる小花ちゃんの背中を叩いた。
「こんにちは」
もじもじする仕草で笑う小花ちゃんの左頬には小さなえくぼ。紗弓ちゃん譲りでかわいい。
「瑞香ちゃん、こんにちは。ピアノ、上手になったね」
小花ちゃんの手を握り、笑って返す。
「全然不器用なのよ、旦那に似たのかなあ……」
小花ちゃんの頭を撫でながら、紗弓ちゃんが首を傾げた。頬を膨らませて、小花ちゃんが怒ってる。
「まだまだ、始めたばかりだもんね。そんなに急にできるわけないよね」
と握った手をぶんぶん振ると、小花ちゃんは大きく頷いた。
ふと、彼が見ていることに気づいて手を止める。見上げたら目が合ったのに、しらっとした顔のまま。
「ピアノ、弾けるの?」
勝手に口から零れ出た。
尋ねるべくして尋ねた言葉。他にも尋ねることはあるはずなのに、なぜか声に出していた。
振り向かないけど、小花ちゃんと紗弓ちゃんも彼を見上げてるのがわかる。
「弾けるけど」
意外にも早く出てきた言葉は、ぼそっとしているのにすんなりと耳に入ってきた。

