聴かせて、天辺の青



ピアノが置いてある部屋は、おばちゃんの部屋の隣の洋室。擦りガラスの引き戸の向こう側に、人影が映ってる。


手前の黒い少し大きめの影が彼、その奥に見える白っぽい服が紗弓ちゃん、隣のピンク色の服を着てるのが小花ちゃんだろう。


驚かさないように、そっと引き戸を開けていく。ピアノの音がずっと大きくなる。


やっと体が通れるほど開いたところで、彼が振り返った。


何?
って言いたげな無愛想な顔。


気づいた紗弓ちゃんが振り向く。アッシュブラウンの髪をふんわりと纏めた紗弓ちゃんは、やわらかな笑顔を見せてくれた。


「瑞香ちゃん、おかえりぃ。久しぶりだね、元気だった?」


前に紗弓ちゃんが帰ってきたのは年末年始。次は五月の連休だろうと話していたのに、一ヶ月も早い。


「うん、紗弓ちゃんも元気そうだね、また旦那さん、出張? 今度はどこ?」

「今度は九州、一応は一ヶ月の予定で連休までには帰れるらしいけど、まだわからないんだって」


紗弓ちゃんは口を尖らせながらも笑っている。


旦那さんは年に二、三回は出張に行ってる。期間は二週間から一ヶ月ぐらいだから、紗弓ちゃんはよく実家に帰ってくる。