「小花ちゃん、ピアノ上手くなったね。さすが紗弓ちゃんの娘だね」
「違う違う、あんまり下手だから紗弓が怒りながら教えてたのよ。そしたら海棠さんが来てね」
おばちゃんが首を振る。
「紗弓ちゃん、そんなに大きな声で怒ってたの?」
本当にそう思った。
二階にいる彼に聴こえるぐらい、彼が驚いて下りてくるぐらい紗弓ちゃんが怒ったのだと。
「私にね、ピアノがあるのかって聞くから、奥で孫が弾いてるって教えたら見てもいい? って言われてね」
おばちゃんの言い方では、彼が下りてきたのは紗弓ちゃんが怒ったのとは関係なさそうだ。
「彼、ピアノに興味があったの?」
「うん、そうみたい。紗弓が教えてるのを黙って見てるだけなんだけどね。なんて言うのかなあ……何かありそうな感じなのよ」
「何かって? ピアノに?」
おばちゃんは首を傾げた。
何かありそう……って、何?
「うん、わからないけど何か思うところがありそうな……変わった顔をしてたのよ、まだ居るから、様子見ておいでよ」
おばちゃんが彼に感じたものって何だろう。
とりあえず確かめようと、私はピアノのある奥の部屋へと向かった。

