小花ちゃん、上手くなったんだなあ……いや、きっと紗弓ちゃんが弾いてるんだ。
と思いつつ、家の中へ。
和室の向こうの台所で、おばちゃんが夕食の支度をしている。
「ただいま、紗弓ちゃんが帰ってきてるんだよね?」
「おかえり、瑞香ちゃん、そうなのよ……帰ってきたみたい、奥にいるよ」
と答えてくれたおばちゃんは、少し溜め息混じり。眉間にシワを寄せて、口を尖らせて。
「今度は長いの?」
「一ヶ月だって言ってたけど、もしかしたら延びるかもって。手伝ってくれるわけでもないし、めんどくさいだけなのにねえ」
そう言いながらも、おばちゃんは絶対に嬉しいはずだ。口に出しては言わないけど。
だって、こういう機会じゃないと紗弓ちゃんは帰ってこないし、英司なんてもっと帰ってこない。
今はおじちゃんも居ないし、寂しいに決まってる。なんて言ったら、私が怒られそうだ。
台所のおばちゃんの隣に立って、出来上がりつつある夕食のおかずたちを盛ろうと箸を持った。
連奏するピアノの音が聴こえてくる。ゆっくりと先を行く音を追いかける覚束ない音。紗弓ちゃん弾いた後、小花ちゃんが真似ているんだろう。

