スーパーを後にした私は、自転車を漕ぎながら悶々としていた。
河村さん、一日ぐらい休んであげたらいいのに……子どもにしてみたら、両親と一緒にいたいはず。
普段家にいない父親が、久しぶりに帰ってきているのだから尚更。仕事にきっちりしているのはわかるけど、家庭も大事にしてあげたらいいのに。
私が言うべきことじゃないけど、さっき見た娘さんの顔が離れない。
あれ?
おばちゃんの家の前に、鮮やか赤い色の車が停まっている。ハッチバック型のドイツ車。
あれは英司のお姉さん、紗弓(さゆみ)さんの車だ。紗弓ちゃんは私より三歳上、結婚して隣県に住んでいる。
旦那さんが出張だから帰ってきたんだと、だいたい想像はできた。
急いで自転車を停める。
おばちゃんの自転車は停まっているから、彼ももう帰ってきてるようだ。
玄関の引き戸に手を掛けた私の耳に届くのは、ピアノの音。
紗弓ちゃんの娘、小花(こはな)ちゃんが弾いてるのだろう。今年の年末年始に帰ってきた時に、ピアノを習い始めたって言ってたし。
習い始めたのは、紗弓ちゃんの影響。紗弓ちゃんは小さい時から習っていたから。
私も習いたかったんだ。
習わせてもらえなかったけど。

