早歩きをしていたせいか、下をよく見ていなかった彼女は、足を前に踏み出した時に何かを強く蹴ってしまった。

岩とは少し異なる柔らかな感触に驚いて真下に目線を下げた。

浜辺にあるまじきモノ――それは少年の『頭』だった。


打ち寄せる波に揺らめく髪は、銀色で艶やかだった。服も、半分以上は塩水に浸っていた。砂を被ってはいるが、幼さの残る顔立ちは、彼がまだ10代であろうことを示していた。

大丈夫。微かだけど、呼吸もしているみたいだし。

美幸は頭の中を整理すると、『この子を助けなければ』と思っていた。

気が付けば、彼女は自分のマンションの前に立っていた。行きずりに拾ってきた少年を担ぐようにして。

中に入ると、美幸は急に冷静になっていく。これからこの彼をどうしたらいいのか。
とりあえず、服やら顔やらの砂を払い落とす。が、それでも目覚めない。暫く彼の顔を見つめていたが、そのまま放置しておくことにした。

なるべく面倒なことには、関わらないようにしよう。そう思っていたのに、、

美幸は今までのらしくない行動に自身が驚いていた。

日は、もうすっかり暮れている。

自分を納得させるだけの理由が見付からないまま、彼女の瞼はどんどん重みを増していくのだった。