マンションの階段を降りて、真っ直ぐ歩けば、程無くして海に着く。海は静かでまるで昼間の街の喧騒を全て呑み込み、自分と共に止まっているかのようだった。

夕日が傾いてもいまだに辺りは明るく、美幸は目眩を感じた。

外に出たことを少し後悔しながら、浜辺を歩くと、どこか懐かしいメロディーが聞こえてきて、美幸はふと歩を緩めた。

『誕生日の歌だ。』美幸はすぐにわかり、また歩くスピードをあげる。一刻も早くそのメロディーから遠ざかりたかった。

美幸には戻るべき家はあっても、それは決して戻りたい家ではなかった。そんな美幸にとって、温かい家庭を彷彿とさせるその曲は、ただ苦痛でしかなかったのだ。