ご近所づきあいを大切に。

実家の母から口うるさく言われてたそれを守り、無難に菓子折りを携えて挨拶に出向いた。

右隣のお宅は、入居者募集の張り紙。
なんだ、ここも空いていたのか、と。



左隣のお宅へ足を踏み入れれば、手入れの行き届いた草木に感嘆する。
カミツレの花が綺麗に咲き誇り、アップルミントが溢れんばかり。


敷石の上をゆるりと歩き、行き着いた先にあるドアベルを鳴らせばかわいらしい音が鳴り響いた。



中から、誰かがこちらへ向かってくる気配が伝わってくる。
ガチャリ…と鍵がはずされ、私の予想を意に返さなかった隣人に衝撃を受ける。




こんな、素敵な家に住む人というのは女性とばかり思っていたから。
先入観とは恐ろしい。




白いシャツに黒のパンツと一見ラフな服装を華麗に着こなす隣人は、
美青年とでも申しましょうか。




「あ、あの、私、左隣に越してきた星川です。
よかったら、これ食べてください。」



しどろもどろになりながらかろうじて挨拶を済ませる。
と、彼の顔は明らか笑いを堪えるそれだった。




『俺、藤野です。
こちらこそ、よろしく。』





藤野、…まさかね。