思い出した、
彼と私が出会ったのもこの季節だった。



春もうらら。
桜は散り際、葉桜。



田舎の支店飛ばされたときは少し自棄になっていた。
でも、ここの地域に住んでいる作家さんのことはずっと前からファンだったから、と自分で折り合いをつけた。



不動産の前で隙間無く張られた物件情報を眺めていれば、右端上から2番目。
とても、目に付いた。



―――庭付き、家具つき、平屋。築35年、――-


正直集合住宅には入りたくなかった自分にぴったりだ。
それに会社に近い。


しかも、その古さ所以にあらかじめのお見積り額より大きく下回る。





『お姉ちゃん、目星はついたかい?』

キセルを片手に、紫煙をゆらゆら揺らしながら近づいてくるおじさん。


「あのっ、この物件、まだあります?」
背伸びし、人差し指でかろうじて届いたそれを見ておじさんは笑う。



『ああ、あるよ、それにそこは穴場だ。』



「穴場?」



『分かる人にはわかる。
そこはすごい場所だ。』




そんな歌い文句に踊らされたんだろう。
その場で入居を決め、鍵を渡されて帰途に着いた。