『そうでしたね。』
しらばっくれ感がいなめない彼はもう昼食を食べ終え、流しへお皿を片している。
『今、持ってきますから。』
そのまま彼が書斎へ向かう間に、私も「ごちそうさま」と一息つき、お皿を片す。
私がテーブルを布巾で拭いているところへ彼も戻ってきた。
「ちょっと待っててください。」
布巾を流しの横にちょこんと置き、また私も居住まいを正す。
彼も、背筋を伸ばしこちらに向き直る。
『これ、今月分です。』
差し出された大き目の茶封筒を受けとる。
「ありがとうございます。
あの、読んでも?」
そう聞けば、笑顔で『勿論。』と返された。
私は背筋を伸ばしたまま、封筒に手をかける。
中には何枚もの原稿用紙が見える。
藤野さんは今では珍しい手書きで原稿を仕上げる方だ。
見た目通り、綺麗で、繊細な文字を書く。
毎回、私が藤野さんの原稿を受け取らせてもらえて、
一番最初の読書になれるのは、身に余るほどの特権だ。