店を足早に出て、自然と早くなるペースに身を任せる。
しばらく歩けば、私の家と彼の家が見えてきた。
自分の家を通り越し、隣へ向かうと目的の人はもうそこに居た。
「藤野さん。何してるんですか?」
思わず漏れた心の声が隠し切れない。
『君が来るのを待ちながら、掃除でもとね。』
ああ、だから似合わないほうきなんか構えているのか。
「っぷ、やめてください、似合いません。」
『どういうことですか?』
真顔で問いただされても駄目だ。
だって、似合わないものは似合わない。
作家の彼は職業柄色白。
その上、色素は全体的に薄め。
私が贔屓目に見なくても、かなり整った顔をしている。
そんな彼が間昼間からほうきを片手にしていられると。
「もういいです、私が後で掃除ならしますよ。」
説得するにも難しく、早く家に上がりましょうと急かす。

