ケータイ片手にオフィスに戻ると、“おーおー、また今日も電話ですかあ?” 茶化すような声がする。
舌打ちしたい気持ちを堪え、そちらを向くと案の定そこには、
「三沢さん、」
珈琲を優雅に飲みながら、微笑を浮かべる上司、三沢 英一(ミサワ エイイチ)さんが立っていた。
「おはよう」
「…おはようございます」
挨拶の代わりに舌打ちでもしてやろうかと思ったが、右手にある珈琲をぶっかけられても困るので止めておく。
せっかく新調したカーディガンなのに、そんな事態は避けたい。ベージュ色が一瞬で斑なブラウンになられても嫌だ。
かと言って出社早々、面倒な上司の相手をするのも気が進まない。当たり前だが。
「で? 毎朝毎朝懲りずにラブコールしてきて
仕事の妨害を得意とする彼氏くんは元気ですか?」
ほらきた。
嫌味たっぷりの口調でニコニコと尋ねる三沢さんは、究極に性格が悪い。
「毎朝じゃありませんし、ラブコールでもありません。彼氏なんてもってのほかです。主任には許可を得てますし、仕事にも支障はきたさないように心掛けています」
一つ一つ丁寧に訂正していく。大半は冗談なんだろうが、否定をしなければ肯定、と何とも単純な理由で言いふらしたりしそうだから。
