―――― 指定席 ――――
達弥 (たつや) 秋深(あきみ)
「あきみー」
放課後、教室の外でたっちゃんが私を呼ぶ。
呼ばれた私は、急いで帰る準備をして教室を出た。
「帰るぞ」
たっちゃんに追いつくと、ぶっきらぼうに言って私へ背中を向けた。
その後ろを、私は今日もニコニコしながらついてく。
いつものように、二人で自転車置き場まで歩いていった。
たっちゃんは、無造作に鍵をはずして自転車にまたがると私を振り返る。
「乗れ」
「うん」
たっちゃんが、またぶっきらぼうに言ってくる。
私の指定席は、たっちゃんの後ろ。
春も夏も秋も冬も、たっちゃんの背中につかまって、自転車の後ろに座るんだ。
たっちゃんは、毎日一生懸命に自転車をこいでくれる。
私はたっちゃんのうしろで、デコボコ道もガタガタ道も、その大きな背中にしっかり摑まって駆け抜ける。
二人を乗せた自転車は、グングンとスピードを増していく。
「たっちゃん。風、気持ちいいねー」
「ん? あぁ」
たっちゃんの気のない返事は、いつものこと。
でも、私は幸せなんだ。
だって、私はたっちゃんのそんなところをよく解っているから。