大人が泣くところなんて、父親以来見たことがなかった。

父の時とは違って、声を出さず、表情を変えず、ただ静かに涙をこぼすおじさん。
私は慌ててポケットを探りハンカチを取り出した。

さっき自分が泣いた時はすっかり忘れていて使わなかったハンカチ。
それをおじさんに差し出した。

「おじさん、これ、どうぞ」

「え?」

おじさんは差し出されたハンカチを見てびっくりしていた。

「これでふいてください」
「いや、大丈夫。ごめんな、変なところ見せて」

そう言っておじさんはスーツの裾で涙をぬぐった。私はそれを見ると黙ってハンカチをポケットにしまった。

「それにしても…」

おじさんは涙を拭き終えると私を見て言った。

「おじさんかぁ、俺一応25なんだけど、そんなに老けて見えるかな」

悲しそうに笑いながらおじさんはそう言う。

「え、あ、あの」

20代と言われて私もびっくりした。
目元のクマや無精ひげ、くしゃくしゃの髪といった風貌からもう少し年齢が上かと思っていたのだ。

訂正しようと慌てて答えると、おじさんは私の頭をくしゃくしゃとなでてきた。

「まぁ、小学生からしたら俺なんておやじだよなぁ」
「そ、そんなことないです」


私がそう言うとおじさんは一度目を丸くして、それから目を細めて優しく微笑んだ。