「今、私のこと馬鹿にしたでしょ」

私は少し怒り気味な声を出した

それでも彼は笑っている

「またそうやって…」

私は呆れたように言ってみせた

だけど心の中では、私も笑っている


しばらくしても、彼はまだ笑っている

私はさすがに困って、
「なんで笑っているの」と聞いた

「面白い。楽しい。だから笑ってる」

そう言うと彼は、また笑い出した

彼が笑う度に、彼の振動が伝わってくる

私はそれが大好きでたまらない

彼の振動を、私はずっと感じていたい

私は携帯電話を開いて、時間を確認した

「ねえケイ」

「ん?」

「そろそろ家に戻らなきゃ」

私がそう言うと、少しの間、彼は固まる

きっと、まだここで星を見ていたいんだ

「…なんで」

「もうすぐ電池が切れるかも」

すると彼は、自分の体を見つめた

私はその光景が、悲しかった

悲しくて寂しくて、
けれどもそれは仕方ないことで

私は気をとり直して立ち上がった

彼の手をつかんで、彼も起き上がらせた

立ち上がった彼には、
草がたくさん付いていた

「ふふ、草まみれ」

私は、そんな彼を笑ってやった

さっきの仕返しってやつだ

「イクミもだ」

そう言われて、私は自分の体を見た

私の体にも、かなりの草が付いていた


彼は私についている草をとってくれた

私も彼についている草をとった

「行こっか」

私は彼と手を繋いで、
暗い夜道のなか家に帰った