麻紀さんの怒りは一向に静まらないご様子で…
アタシはやっぱり大人しくその場はやり過ごすしかなかった。
何も起こらないでと神様にお祈りを捧げながら櫻田薫子から目を離さないように気を付けた。
でも気の強い麻紀のこと。
何も起こらないってゆうのは無理な事。
ましてや相手は櫻田薫子だ。
アタシ達が静かに過ごしていても向こうが仕掛けてくるのは目に見えてる。
あぁ、たっちゃん!
早く来てください!
そして聖…現れないで…。
なーんて思ってみたけど、そんな願いどおりにはいかないんだよね。
切に願ったのに現実ってものは希望どおりにはいかない。
たっちゃんに早く来てほしいと願ったのに現れたのは聖で。
今一番の招かざる客が颯爽と現れた。
天井に光り輝く存在感たっぷりな大きなシャンデリアの明かりが聖を照らす。
その姿はとてもキレイで、
まわりにいた女性達は見入られたように動きを止めた。
もちろんアタシも例外ではなく。
悔しいほど綺麗なその姿から目が離せなくなっていた。
聖はゆっくりと歩きながら辺りを見回してアタシと目が合うと一瞬動きを止めたように見えた。
でもそれはほんの一瞬ですぐに目を逸らされ。
まるでアタシが目に入らなかったように。
確かに目が合ったと思ったのに、あまりにもあっさりと、見なかったことにしようとでも思っているような態度。
それでも視線を外せないアタシは次の瞬間苦しい動悸に襲われた。
細い手を。
真っ白で生まれたてのような綺麗な手を、
黒の生地に包まれた長すぎる腕に絡ませる薫子。
その動作にはなんの戸惑いもなく、慣れた手つきで、二人はそれが当たり前かのように自然に腕を組んだ。
見ているアタシまでもがそれが正しい事だと思わされてしまいそうなほど。
聖の隣には櫻田薫子。
数学の公式みたいにイコールで繋がっているみたいで。

