あの日、あの夜、プールサイドで


怒りに震える俺を見てハァと小さくため息を吐くと


「寧々ちゃん。
寧々ちゃんがパパに叩かれてる時、ママは何も言わなかったの?」


静枝さんは、諦めることなく寧々に問いかける。



寧々は悩んだように押し黙ると


「言うと……ママも叩かれるから……」


それだけを口にする。



「なんだ、それ……!!」




あんなに泣いて寧々との再会を喜んでたくせに。あんなに寧々を求めてたくせに、結局行き着くところはそこなのか??


寧々を守らず、自分だけを守るのか?!


最低だ!
最低だ!!
最低だ!!!


やっぱりあいつは俺の母親と同じくらい、人間として最低の女だったんだ。寧々を預ける価値もない!!



耳にした瞬間
一気に生まれた嫌悪感。



行き場のない大きな怒りを感じて、その怒りをセーブできずに怒りに任せて後ろ手で壁を殴ると


「う、うわあぁぁぁーん!!」


その音を聴いて、寧々が堰を切ったように大声で泣き始める。